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PHILOSOPHYあの日、
何もできなかった
自分を超える。

空き家率が全国平均を大きく上回る、愛媛・東予のまちなみ。この数字を「衰退の象徴」で終わらせないために、私たちは空き家に、もう一度明かりを灯しています。

株式会社ルミノシティー 代表取締役 田中政守

この文章を書いた人

田中 政守TANAKA MASAMORI

株式会社ルミノシティー 代表取締役

愛媛県新居浜市出身

1988年生まれ。愛媛県新居浜市にて、高台に広がる大型分譲地「美しが丘にいはま」を手掛ける不動産会社を経営。2024年には全国空き家アドバイザー協議会 愛媛県新居浜支部を立ち上げ、新居浜市の空き家課題解決に取り組む。

所属
一般社団法人 全国空き家アドバイザー協議会 愛媛県新居浜支部(事務局長)
所在地
〒792-0026 愛媛県新居浜市久保田町3-27
設立
2024年10月/会員数 5名
01

ひとりの女性の、涙からTHE BEGINNING

不動産業に従事し、空き家再生に本腰を入れようとしていた頃のことです。80代のおばあちゃんが、泣きながら私のもとへ相談に来られました。

この家を、どうにかしてほしい。
子どもたちにも「早く処分しろ」と怒られているの……
ご相談に来られた、80代の女性

その家には、その方の人生の思い出が詰まっていました。しかし当時の私には、その願いに応える力がなかったのです。結局、何もしてあげることができませんでした。

彼女の涙は、今も私の心にトゲのように刺さっています。

もう、あんな思いはさせたくない

空き家で困っている人の支えになりたい。その一心で全国の事例を学び続けましたが、自分ひとりの力には限界があると気付きました。民間だけでは突破できない壁がある。行政や地域と一体にならなければ、本当の解決にはたどり着けない。独りで悩み、涙を流す人を、この街からなくしたい——その思いが、すべての出発点です。

空き家の相談を受ける様子

あの日の「何もできなかった自分」を、
今度こそ超える。

02

東予4市の、
空き家率THE NUMBERS

全国平均を大きく上回る

18.4%

四国中央市の空き家率

13.8%

全国平均

+3.9%

5年間の増加率(+300戸)

7,980戸

市内の空き家数

※ 出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月1日現在)。「5年間の増加率」は平成30年調査の空き家数との比較です。全国平均13.8%も同調査によります。

四国中央市、新居浜市、西条市、今治市。工業とともに発展してきた東予のまちは、どこも同じ道を歩いてきました。産業に人が集まり、同じ時期に家が建ち並び、そして同じ時期に、その家から住む人がいなくなる。空き家は、どのまちでも全国平均を大きく上回る割合まで増えています。

背景にあるのは高齢化です。新居浜市では近い将来、市民の約4割が高齢者となる見込みで、程度の差はあれ、近隣の各市も同じ流れの中にあります。入院や相続をきっかけに、家がそのまま放置されるケースが増えています。

かつて家族の笑い声があった場所が、静かに朽ちていく。その現実が、この地域の日常になりつつあります。

私は現在、公民館などで「空き家発生抑制セミナー」を開催しています。そこで感じるのは、所有者の「どうしていいかわからない」という切実な声です。空き家は、防犯・防災の問題だけでなく、所有者の精神的な負担にもなります。行政も対策を進めていますが、個別事情への対応やスピードには限界があります。だからこそ、民間と行政が連携し、現場で一つひとつ解決していく必要があるのです。

03

空き家を活用した
取り組みに挑戦FIRST STEP

新居浜の良さは、
住んでみないとわからない。

最初に取り組んだのは、空き家を「お試し移住施設」へと再生することでした。空き家を壊すのではなく、この街の日常を体験できる入口にしたい。一般的な宿泊施設とは違い、生活の延長として滞在できる場所を目指しました。

リノベーションでは、その家の「表情」を残すことにこだわりました。設備は整えつつも、木の温もりや暮らしの気配はあえて残しています。ここを訪れた人が「落ち着く」と感じ、新居浜を自分ごととして捉えてくれることを願いました。

すぐに移住につながらなくても、「また来たい」という声が増えていることに手応えを感じています。一軒の空き家に明かりが戻ることは、小さくても確実な変化です。この積み重ねが、街の未来を作ると信じています。

リノベーションした家の内観
設備は整えつつ、木の温もりと暮らしの気配は残す
04

そこから生まれた
一棟貸しホテル事業THE MODEL

運命共同体という関係

運営を続けるなかで、自分が「待ちの姿勢」になっていることに気付きました。「移住してほしい」という想いは、外から来る人にとっては少し重い。まずはこの街を楽しんでもらうことが必要だと考え、一棟貸しホテルへと舵を切りました。

しかし、消防法などの制度や地域の不安など、現実は簡単ではありませんでした。そこで行き着いたのが、パートナーシップです。

多くの所有者は「費用をかけても回収できるかわからない」という不安で動けずにいます。そこで、そのリスクを私たちが引き受けるモデルを考えました。家主には無償で物件を貸していただき、リノベーション費用はすべてこちらで負担。ホテルの収益で回収し、その後は利益を分配する仕組みです。

これは単なる事業ではなく、「運命共同体」ともいえる関係です。

空き家を貸す仕組みを見る →

05

ホテルを始めて、
気が付いたことWHAT I LEARNED

最も大きく変わったのは、価値観です。特に海外のゲストは、観光地ではなく日常に価値を見出します。スーパー、路地裏、何気ない会話——それらを「特別な体験」として楽しんでいます。

この街は素晴らしい。
この静けさがいい。

「この街の日常が贅沢だ」という言葉に、気付かされました。彼らは、私たちが当たり前と思っていたことに、価値を見出してくれたのです。

また、ゲストとの交流も大きな変化でした。チェックアウト時に交わす「また来るよ」という言葉は、単なる宿泊を超えた関係を感じさせてくれます。近所の方との会話も増え、地域の空気が少しずつ変わってきました。

空き家を通じて人と人がつながり、街の体温が上がっていく。その変化を、いま実感しています。

06

負担から資産に
変わる仕組みづくりへFROM COST TO ASSET

空き家は「問題」ではなく

「可能性」です。

使い方次第で、人を呼び、地域をつなぎ、未来を作ることができる。新居浜を起点に、東予のまち一軒一軒と丁寧に向き合いながら、この挑戦を広げていきます。

  • 負担 → 資産へ

    このモデルの本質は、空き家の価値を再定義することにあります。人が出入りすることで、空き家は「負担」から「資産」へと変わります。

  • 関係人口が生まれる

    ホテルを通じて外から人が訪れ、地域と接点をもつことで、新たな関係人口が生まれます。それは移住とは違う、新しい関わり方です。

  • 同じ課題を抱える地域へ

    何度も訪れる人、地域を応援する人、つながり続ける人。この地域でモデルを確立し、同じ課題を抱えるまちへ、成功事例として発信していきます。

テレビ番組で紹介された様子
取り組みはメディアでも取り上げられています。

この街を、笑顔でいっぱいにすること。

全国平均を大きく上回る空き家率という数字を、衰退の象徴で終わらせるつもりはありません。“負動産”の空き家に、もう一度明かりを灯すことで、このまちの未来を変えていきたい。それが、私の一生の仕事です。

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